王子様はルームメート~イケメン彼氏とドキドキ寮生活~

「悪い。近づきすぎたか?」

 綾菜より、頭ひとつ分は背が高いその人物は、彼女が気を失うより前に、すぐさま長いストライドでそばを離れてくれた。

 対称の位置に置かれたベッドまで行くと、それをソファー代わりに座り、綾菜へ視線を戻す。

「あっ……」

 この切れ長で少しきつめの瞳は、まだ鮮明に記憶にある。

 トップが短めな黒いショートヘア。意志の強さを感じさせる引きしまった口元。

 寮運営室で出会った二人にも全くひけをとらない美形だ。

 うん。電車で助けてくれたひとに間違いない。

「オマエ、男がダメなんだって? 御影に距離をとれって言われたけど、このくらい離れていれば平気?」

 自分に血の気が戻っていることを確認し、綾菜は頷いた。

「えっと、どうしてあなたが?」

「俺、久我隼人。オマエと同室だってさ。一年間よろしくな」

 上にあがった血が即座に急降下した。

 穴の開くほど見つめても、目の前のひとは男にしかみえない。

『久我隼人は、男だ』

 先程、御影が言ったことは本当だったのだ。
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