王子様はルームメート~イケメン彼氏とドキドキ寮生活~

「あれっ……?」

 急に消えた圧迫感。

 天国はこんな簡単に到達してしまうのだろうか。

 綾菜はおそるおそる瞼を開いた。

「まだ、電車の中、よね……」

 車内にひしめくのはイギリス時代で知り合った数よりも、確実に多いであろう人数の乗客。

 間違いなくまだ満員電車の中にいる。

「私、生きてる」

 生存を実感して、ようやく綾菜は周囲の変化に気づいた。

「押されない……」

 前方に空間ができている。

この混雑の中では考えられないことだ。

「もしかして、かばってもらっている?」

 視界に入るのは、紺のブレザーの胸元。

ずいぶんと背が高い。

 このひとが前にいるおかげで、誰にも押されずにすんでいるのだろうか。

「やっぱり……」

 電車が揺れるたびに、ごつんごつんと前のひとの身体に誰かがぶつかる音がする。

 なのに、綾菜の身体には全く衝撃がこない。

 やはり、かばってもらっている。
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