王子様はルームメート~イケメン彼氏とドキドキ寮生活~

「ありがとうございます」

 綾菜は見知らぬ親切なひとに心からお礼を言った。

 おおげさでなく、溺れる寸前に助けだされた気分。

「大丈夫か?」

 気遣わしげな声が頭上から返された。

 低く、柔らかで一般的にはきっと甘いと表現されるであろう音。

「ひっ……」

 しかし、綾菜は声にならない悲鳴をあげた。

 降ってきた声は、女性特有のかろやかな響きもなく、小鳥のような高い色もない。

 ――男の、ひとだ。

 綾菜は目の前のひとが、男性だと認識してしまった。

 ――どうしよう。

 自慢ではないが、小学校からずっと女子校の寮生活。学校の先生も寮母さんも全員が女性。

 最近、接した異性で思いつくのは面会に来たお父さんくらいだ。

 異性が苦手らしいと初めて気づいたのは、近くの男子校との交流会があったとき。

 男子が近づいてきた瞬間、気分が悪くなった。話しかけられようものなら、確実に血の気が引いた。

 嫌いなわけではない。

 テレビで見る芸能人やスポーツ選手は普通にかっこいいと思うし、憧れもする。

 ただ、身体が受けつけないのだ。
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