言い訳
 結局。あたしは散々中村を笑い倒したあと、中村の自転車に乗せて貰うことになった。
「乗らないと中村が拗ねるから」。そんな理由つきなら、こんな男女なあたしでもそれに乗ることを許されるような気がしたからだ。

秋の夜、とは言ってもまだまだ陽が高い空の下、あたしは中村が漕ぐ自転車に揺られていた。
 段差で自転車が小さく跳ねたとき、あたしはほぼ無意識に中村の上着を強く握りしめていたようで、中村は心配そうに後ろをちらりと振り返った。そしてすぐに顔を戻すと前を見据えたまま、「危ないからもっとしっかり捕まれ」と言った。
 そのときの中村の表情は後ろで揺られるあたしには見えなかったから釈然としないけれど、少なくともあたしの頬は赤く染まっていたと思う。
 段差は危ないから。中村の意図はただそれだけで、きっと他意はない。
 あたしがそれに従うのも、中村が危ないと心配するからで、恥ずかしいことなんかじゃない。
そうやって色んな言い訳を繰り返しながら、ややあって、あたしはその背中に身体を預けた。

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