クロトラ!-妖刀奇譚-
それから、名前。
「…わさびっていうのが、名前?」
あだ名にしても変な名前だと思いながらたずねると、不思議な連れはうなずいた。
「ああ。空岩寂則ってのが本名だ。」
「からいわさびのり…からい・わさび……って、えぇー…?」
ふざけている。
いろんな意味で一体この男は何者なのか。
「――おい、早く入って戸閉めてくれ。風で火がつかねぇ。」
呼ばれて少女はあわてて障子を閉めた。
「えっと、お邪魔します…」
障子が閉まると、ワサビは火打ち金を打った。
種火が育って行灯に点るまでのあいだ、少女は部屋の中をくるりと見渡した。