ちいさなたからもの
「楽しくはないけど」



ただ、つまらないわけでもない。



「・・・そうか」



がっかりしたような顔になる。



「俺、向こうの木陰で休んでるから」



「分かった」



父さんは頷いて、



「桜ーっ。パパも遊ぶぞぉ」



子供のように、桜の元へと駆けていった。



「さて、と」



俺は木陰に座って一休みする。



「ふう・・・」



しばらく、ボーッと花畑を眺める。



かなりの広さだった。



桜は、あの不気味なぬいぐるみを抱えている。



ひゅうっと風が吹く。



春の暖かさが、心地よかった。


桜は、楽しいのだろうか。



俺なんか、いないほうが楽しめたんじゃないだろうか。



今だって、父さんとふたりで、楽しそうに花畑を駆けている。



俺は、無理にでも留守番をしていたほうがよかったんじゃないだろうか。



俺は、何を考えてるのだろうか。



この旅行が終われば、また桜と顔をあわせない日々に戻るだけだと言うのに。



父さんに、桜を任せて・・・



俺は自分の生活に戻るだけ。



ただ、それだけだ。



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