ちいさなたからもの
桜の世話は、父さんに任せっきりだった。



母さんの面影を持った桜は、見ていて辛かった。



どうしようもなく、辛かった。



だから、なるべく顔を合わさないようにした。



ちょうど受験で、家と、学校と、塾を往復するような生活だったから、それは問題なかった。



俺のことを心配してきた友達もいた。



でも、大丈夫だ、とだけ言って、あとは無視した。



お前らには、どうせ分からない・・・



そう思ったから。



そうしていたら、誰も話し掛けてこなくなった。



ただ、勉強だけした。



夢中で勉強した。



何も考えたくなかった。



何もかもが、楽しくないと思えた。



勉強に集中している間は、無心でいられた。



だから、勉強に没頭した。



そして、行きたい学校に合格した。



母さんも行くことに賛成してくれていた学校に。



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