Fahrenheit -華氏-
でも……
望んでもない部署に異動させられるんなら、どうせなら一緒に働く女は美人がいい。
ニューヨーク州でも特にレベルの高いニューヨーク大学飛び級なんて、とてもじゃないが俺のついていけるレベルじゃない。確か…ケネディ大統領の子息である弁護士、ジョン・F・ケネディ・ジュニアやサルバトーレ・フェラガモ(靴のデザイナー)が有名な卒業生であるがその他多くの著名人を輩出している大学でもあった筈…
頭の良い女は苦手だ。
どう出ていいのかあれこれ考えさせられるから。
どうせ頭でっかちの堅物に違いない。
はぁ
俺はため息を吐いて、綾子との電話を切った。
窓の外をちらりと見る。
もう広尾に入った。神流グループ本社のオフィスは目の前だ。
歩道をトレンチコートの裾を颯爽と翻し、姿勢の良い歩き姿で若い女が通り過ぎていった。
どうせなら、あんな美人がいいな。
上品だけど、ちょっと色気があって、スタイルが良く、ほんの少し知的な感じが読み取れる。
どうせなら……
俺は車を走らせながら、その女の歩き姿をじっと目で追った。