Fahrenheit -華氏-

「英語は慣れるより慣れろですよ。教室に通わなくても一ヶ月私に張り付いていれば嫌でも身につきます」


「え?」


部長は顔をあげた。


きれいな瞳を、きれいな動作でまばたきさせる。


「それに人には向き不向きがあると思いますよ?私は部長の中国語の方がよっぽど凄いと思いますけど」


「いや…だって英語は公用語でしょう?世界中に通じるじゃん?ところで張り付いて……ってずっと柏木さんに?」


「ええ、まぁ」


言った後で後悔した。


忘れてたけど、この人はただでさえ鬱陶しい人だったのだ。


「張り付く♪ずっと柏木さんの隣にいるよ」





ずっと隣に……




何て陳腐な言葉。


安っぽい音楽の安っぽいフレーズのようだ。





男のそんな言葉は信じられない。


いや…言葉だけじゃない。あたしは男が信じられないのだ。




でもそんな胸の内を誰も知らない。


知って欲しくないし、誰かを知りたいとも思わない。






「まぁ程ほどに…」


あたしは曖昧に返した。



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