Fahrenheit -華氏-

長い歴史を持つ神流グループで、緑川家はいつも№2の裏方に徹している。


親から子へ祖父から孫へ。


俺たち神流が代替わをすると同時に緑川も同じように変わっていったっけ。


常務取締役や、専務取締役などは親父の遠縁に当たる人物で、みな薄いとは言え、神流の血が流れている。


しかし緑川は違う。


緑川家は、戦前に(当時は神流物流という社名だった)創立した当時から居た古い仲ではない。


戦後十年以上立ってから、のし上がってきた男で…まぁ早い話成り上がりというわけだ。


その子孫が今の現副社長。


会社では№2の役割だが、会長の座を虎視眈々と狙っている。


社内でも、神流を指示する神流派と、緑川派と呼ばれる派閥があるぐらいだ。


故に、会長である親父と、副社長の緑川もあまり仲が宜しくない。


こう見えて結構ドロドロしてるんデス。


と、まぁそんなわけだから。


娘の葉月と俺を結婚させて、会長職の裏から糸を引きたいと言う黒い魂胆が見え見え。


あのタヌキおやじめ!






親父は知ってンのかなぁ?知ってる筈ないよなぁ。


かと言って親父に言いつけるのもガキみたいで嫌だし、できればやりたくない。


「……うちは…忙しいので、本当に簡単な雑務程度しかやることがないですけど、それでもいいんですか?」


「はい。是非お願いします。何といっても副社長の娘さんですから。それに研修で一ヶ月程度のことですので」


一ヶ月……かぁ…


仕方ねぇよな。


何とかやり過ごすしかねぇのか。








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