Fahrenheit -華氏-


―――


啓はシャワーを浴びている。あたしは彼のバスタオルやローブを脱衣所に用意して、リビングに一人タバコをくゆらせている。


佐々木さんに送ってもらったあと、あたしは彼に電話を掛けた。


こちらから掛けることはほとんど無かったのに、何故だか無性に不安だったから。


長いコールを緊張した面持ちで聞いていたけど、コールは突如切れた。


まるで外界からシャットダウンするように、プツリと。


その後何度かけても繋がらない。


急に不安がこみ上げてきて、だけどそれ以上どうしようもなく、とりあえずメールだけは送った。


心配してるかもしれない。と思って。


そんなこと忘れて緑川さんとどうにかなってるかもしれないけど、それでもあたしは啓を心のどこかで信じていた。


………にも関わらず、やっぱり不安は拭い去れない。


緑川さんは、仕事面ではやや問題があるものの、あたしより若いし、あたしよりずっと素直で可愛い。


子犬のようにくるくる回る表情。フワフワしていて、いつも何かをねだっているような甘い声と顔。


ピンクやフリルの似合う、いかにも女の子って感じ。


あたしとは正反対。




あたしは啓に怒ってばかりな気がする―――




もっと素直になれれば、もっと可愛くなれれば




こんな不安にならなくていいのに……






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