Fahrenheit -華氏-
吸い掛けのタバコを灰皿に置いて、あたしはリビングボードの引き出しから一枚の写真を取り出した。
その隣にピンクのリボンをつけた鍵が一つ、入っている。あたしは鍵を残して引き出しを閉めた。
写真は19年前の―――思い出の一枚。
その写真には5歳のあたしと―――……二つ上の神流 啓人が二人仲良く肩を並べて、はにかみながらも笑顔で映っていた。
微笑ましい思い出にちょっと微笑し、あたしは写真を手にソファに戻った。
吸い掛けのタバコを再び手に取り、口に含ませながら写真をまじまじと眺める。
この写真は、二週間ほど前にアメリカに居るママが送ってきた。
『瑠華、あなた今啓人くんと同じ職場でしょう?懐かしい写真があったから送ってみたの。あなたは覚えてないだろうけど。啓人くんに見せたら懐かしがるんじゃないかしら』
ええ、ママ。
写真を見るまでは、全然思い出せなかったわ。
左右で色の違う瞳。天使のように可愛らしい男の子の笑い顔に、啓の面影が残っている。
神流おじさま所有の軽井沢の別荘で撮られたものだということを聞いた。
軽井沢に行ったことは記憶に残っているけれど、啓の存在はそれまでおぼろげだった。
啓は知っているのかしら…
知っていただろう。何度かそれらしいことを言いたそうにしていた。でも彼も幼い頃の記憶があたしかどうかはっきりとした確信を持っていないようだ。
くすっ
写真を眺めて思わず笑みがこぼれる。
こんな可愛らしい男の子が……
どうしたらあんな男に育つのかしらね。