Fahrenheit -華氏-
俺って単純?
柏木さんの一言でがぜんやる気が出た!
大津食品産業の件を早々に片付けると、俺は椅子に座ったまま伸びをした。
柏木さんはマイペースに仕事を続けている。
「あ、俺仕事片付けたし、そっち手伝おうか?」
「いえ、結構です。それより少し休まれては?顔色が悪いですよ」
柏木さんに指摘された通り、昨日の残った二日酔いからまだ立ち直れなかった。
必死にテンションを上げて明るく振舞っていたって言うのに……
柏木さんは鋭いな。
「これ、どうぞ。二日酔いに効くそうです」
柏木さんはバッグの中をごそごそさせると、錠剤のパッケージを取り出した。
「え?」
「いらないのならいいですけど。二日酔い大丈夫ですか?」
俺、二日酔いなんて一言も言ってないのに……またも見抜かれてる。
「ありがたく頂戴します」
俺は錠剤を受け取った。
とほほ…みっともないなぁ。
その場でもらった錠剤を飲み、しばらく柏木さんの働きぶりを眺めていた。
相変わらずそつがない。
早いしミスはないし、惚れ惚れするほど完璧だ。
俺は頬杖をついてのんびりと眺めていたが、昨日の疲れと睡眠不足がたたって今更ながら眠気に襲われた。
ふわっと大きな欠伸を漏らすと、
「私のことは気になさらなくて結構ですので、帰って休まれては?」
と柏木さんが俺を見た。