Fahrenheit -華氏-
ラッキー♪と思いたいけど、目先にある仕事を片付けなくては。
しばらくの間、互いに無言でパソコン操作や電話に集中していた。
沈黙が続く。
「か、柏木さんえらいね。週明けにしてください、って言えば済むことなのに」
「部長こそ同じじゃないですか」
「そ…そうね。でも、まぁ週明けだと間に合うかどうか分からないし、まだスタートしたばっかりだからミスはできないしね」
俺の言葉に柏木さんは顔を上げてちょっとこちらを見た。
見つめられてるのか、睨まれてるのかどっちともとれない熱い視線だった。
「か……柏木さん?」
「嘘ばっかり」
柏木さんは俺を見据えたままぽつりと呟いた。
「え?嘘??」
「佐々木さんから聞きましたよ。部長は仕事に対して一切妥協しない人だって。熱心で真面目で、誰よりも努力家だって」
さ、佐々木…そんな恥ずかしいこと言ったのかよ。
「や。これぐらい普通ふつー。みんなしてるよ」
俺はへらへらと笑った。
「そうですか?部長は誰よりも早く来て、誰よりも夜遅くまで仕事してるじゃないですか。堅実な努力家だってこと私にも分かりますよ」
「ん~、努力ねぇ。俺としてはあんまりがんばってるところ見せたくないっていうか」
柏木さんはちょっと目をまばたいた。
どうして?と聞いているように見える。
「だって努力しなくても仕事デキるって思われたいっしょ?男としては」
「そうですか?私はがんばって一生懸命な方がかっこいいと思いますけどね」
か…かっこいい!?
初めて柏木さんに言われた。