月影
振り向き際、誰かにぶつかりそうになる。

「わっ!ご、ごめんなさ…」

目の前にいた人を見て、思わず深幸は目を丸くした。

「コタロウさん…!」

彼は首を傾げながら不思議そうな顔をする。

「なぜ、名を…?」

言われてしまった、と深幸は口に手を当てる。
まともに話もしたことのない人間が、名前を知っていたら確かにおかしいと思うだろう。

深幸は腹をくくって、コタロウの方を見て答えた。

「兄に、名前を教えてもらったんです」

言うと、コタロウは小さく、そうか、とだけ答えた。
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