【短編】10年越しのバレンタイン


私は空いている側に座ると、バッグを引き寄せ財布を入れた。

携帯を取り出すと、時間を見る。
14時だった。小腹すくのも当たり前かも。



それにしても、と私はちらりと隣の男性を見た。

彼はうつむいて地面を見つめている。



さっきこの人が座っているのを見た時、私はついにお兄さんが来たのかと思わず緊張してしまった。

けれど、力なく顔を上げたこの人を見た瞬間にそんな緊張はなくなった。

もしかしたらあのお兄さんが来るかもなんて、都合のいい私の妄想に過ぎない。

それを痛感する。


いつまでも、10年もこんな事してたって仕方ない。

分かっていたけど、認めるのは怖かった。

認めたら、あの笑顔を忘れてしまうから。




でも、もういいかな?



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