たった一人…。
『奈央ちゃんへ
突然現れた私と仲良くしてくれてありがとう。そして、ごめんね。奈央ちゃんを見た瞬間、すぐに秀人の彼女だと分かった。だから、経験のない私になんかに頼んだんだって。秀人、私にくれぐれも頼むって。助けてやってくれ。守ってやってくれって。何で秀人は自分で側にいて守ってあげないんだろうってずっと思ってた。けど、離れていてもいつも秀人の中には奈央ちゃんが居て。凄くイライラした。でも、奈央ちゃんに凄く酷いことをしたって反省してる。実は私、妊娠してるんだ。今、3ヶ月なの。実家に戻ってお見合いするのは本当よ。でも、ちゃんと妊娠の事も言うつもり。相手が受け入れてくれるか分からないけど、正直に話そうと思ってる。奈央ちゃんの側には秀人がいる。ちゃんと居てくれるから、離したらダメだよ。私は先の事は分からないけど、産まれてくる子供と必ず幸せになるから。次、もし会える時があったら、その時は笑顔で奈央ちゃんと会いたい。さよなら。元気で。 加奈。』



…。涙が出た。

なぜだろう…。あんなに辛い思いをしたのに。全部、嘘だったのに。
でも、加奈さんはきっと私と同じ。
とても、小さな人間。

「どうした?」

「ううん、分かんない。ねぇ、江本さんが妊娠してる事、知ってた?」

「は?あいつ、妊娠してんのか。」

「うん、そうみたいだよ。お見合いの相手にも話すんだって。」


改めて彼の顔をみる。
昔よりも少しだけシワの増えた目。
でも、昔と変わらない優しい顔。

彼に抱きつき、顔を埋める。

いつぶりだろう…。
彼の匂い。
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