狂犬病予防業務日誌
 改めて気合を入れなおし、段ボール箱に括られている荒縄を解こうとした。指先の力だけでは結び目が固くて緩まない。

 世間の人たちは浮かれ気分でクリスマスプレゼントの包装紙を破いている頃なのにおれは有難迷惑な箱を開けるのに四苦八苦している。

(あっ、そうだ!)
 おれは尻ポケットから先端鋭く尖った千枚通しを取り出して荒縄の結び目に突き刺す。

 どうしてそんなものを持ち歩いているんだ?

 もし、そんなことを尋ねられても答える義理はないし、正直に答えてしまったら老人はショック死してしまうのではないだろうか。

 千枚通しで結び目をほじり、荒縄を解き、ぐるぐる巻きのガムテープをすべて取り除くと、きつく縛られていた反動なのか段ボール箱は長時間雨ざらしにさらされたように型崩れしてふにゃふにゃ。

 段ボール箱をいじくりまわしているとき、犬は一度もワンという擬声語を発しない。それどころか息遣いも聞こえてこない。

 凶暴なうえに冷静さを持ち合わせているのかと犬の性格分析をしているとガサガサガサとさっきよりも早いテンポで動いた。無抵抗で貧弱な段ボールの壁を相手に爪を研いでいる。

 いつか飽きるだろうと静観していたが、爪がむず痒いのか、外の世界に飛び出したいのか、かきむしる音は一向にやまない。

 裂け目ができた。斜めに3本。カッターで切りつけたみたいに切り口はシャープ。中の様子が垣間見え、薄茶色の毛は申請書どおり。

 犬独特の世話しない動き……後にストレスを爆発させるだろう。段ボール箱が破壊されるのは肯定的な事実。



 
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