孤高の天使
雲を払ってしまうラファエルの芸当にも驚いたが、厚い雲が払われた後の空に思わず感嘆の声が零れた。
「っ…きれい……」
目の前には大きくて蒼い月。
魔界に堕ちてくるときにもあったそれは、丸く象られていた。
「月に一度こうして満月になる時がある。これを君に見せたかった」
そう言ったラファエルを振り返って更に驚く。
「ラファエル様…傷が…ッ」
信じられないことに、ついさっき聖剣でつけた胸の傷が塞がって行っているのだ。
切り傷が小さかったからか、回復は一瞬のことで瞬く間に傷は塞がった。
「言っただろう?傷を癒すなら散歩だと」
ぽかんと放心状態の私に、ラファエルがクスクスと笑う。
「この蒼い月は癒しの力を持っているんだ。特に満月はその力が増す」
言われてみれば、月が放つ蒼白い光に癒されていると感じる。
不思議と聖力も回復しているような気もした。
けれど、まさか傷まで癒してくれるなんて。
「良かった……傷が残らなくて…」
傷のなくなったラファエルの胸に触れる。
すると、ハッと息を飲む音が聞こえ…
「イヴ」
静寂の中、ふと名前を呼ばれる。
塞がった傷から目線を上げれば、硬い表情をしたラファエルと目が合う。