孤高の天使
「心配してくれてありがとうルーカス」
フンッと照れたようにそっぽを向いたルーカスにクスクスと耐えきれない笑いが込み上げる。
避けられていた時期こそあったものの、こうして心配してくれている。
結局、私が天使だと言うことをずっと隠していてくれたし、こうして天界まで連れて行ってくれているし。
ルーカスは見た目こそ悪魔だが、とても優しい悪魔なのだと言うことが分かった。
「イヴ、周りを見てみろ」
不意にルーカスにそう言われ、少し躊躇う。
考え事をしていて周りの風景を気にする暇もなく人間界に入ったけれど、今どれくらいのところを飛んでいるんだろう…
不安に思っていると――――
「大丈夫だ。まだ高い所まで来てない」
なぜルーカスが知っているの?
高いところが苦手だという事実を知っていたことに少し驚きつつも、恐る恐る周囲を見渡してみる。
そして、次の瞬間息を飲んだ。
「っ……きれい……」
思わずこぼれたのは感嘆の溜息と言葉。
見渡す限り緑の大地とそれを覆い尽くすような青、そして色とりどりの花。
原色が彩る人間界は私の視線を釘づけにしてやまなかった。
「ルーカス!見て、何かいるわ」
大地を駆ける獣らしきものを見つけ、興奮気味にルーカスに呼びかければ、ルーカスは少し誇らしげに口を開いた。
「あれは魔界や天界でいう魔獣や聖獣みたいなもんだ。人間界では動物って呼ばれてるもので、かなりの種類の動物がいるらしいぞ」
人間界にもラバルやフェンリルの様な獣がいるのね。
もっと他の動物はいないのかしらとキョロキョロと見渡していれば、今度はルーカスがクスクスと笑い始めた。
「いつものイヴに戻って安心した」
真っ青な空を背景に柔らかく微笑んだルーカス。
やっぱり…心配してくれていたんだ。