孤高の天使
「月ですか…確かに月には聖力を回復させる力を持っています」
神は独り言を呟くようにぼそぼそと早口にしゃべる。
「ラファエル様は悪魔と天使、どちらなのでしょう」
「貴方が彼を悪魔と感じるのはその闇を抱えていたからです。私を憎むその心がラファエルを悪魔にしていた…」
私が魔界にいて闇の粒子に染まらなかったように、強い聖力を持ったラファエルもまた聖力を保持したまま悪魔となったという事だろうか。
「私への憎しみの心は消えましたが、まだ魔力が無くなったわけではありません。何よりラファエルが多くの天使を滅した時からもう後戻りはできなくなりました」
「じゃぁ…やっぱりまだラファエル様は悪魔…」
「はい。ラファエルは紛れもなく悪魔です。だからこそ“賭け”なのです」
緊張の面持ちで告げられた言葉に私も思わず息を飲んだ。
「ラファエルの内にある聖力が聖なる母樹と同調するか、それとも悪魔と認識されて弾かれるか…」
「受け入れなかったら…?」
問いかけに答えてほしくないのに聞かずにはいれない。
神はそんな私の想いに気付いているからこそ何も言えず、代わりにハデスが短く端的に答えた。
「肉体ごと滅びて、魂さえもなくなる」
「そんな…ッ……」
「ラファエルが命を繋ぐにはこれしか方法はありません」
誰もが私の選択を待って静寂をつらぬていたその時。
「イ…ヴ……」
「ッ…ラファエル様!」
私の膝に頭を預ける様にして目を閉じていたラファエルが零れる吐息と共に私の名を呼んだ。
僅かに開かれた目からアメジストの瞳が見え、トクンと胸が温かくなる。