恋愛ゲーム
「ヒロトくん。ありがとう」
瞳に涙を浮かべ、
その男から視線を逸らして立ち上がると、
その男は私の腕を掴み
「待てよ…」
と何かを言おうとした。
でも、私は何も言わせない。
この男の話はいらない。
どうせしょうもないセリフを吐かれるだけで、聞く価値もない。
私はもう一方の手を男の掴んでいる手にそっと添えて、
何も言わず優しく離す。
そして、切なそうに男に視線を落としてから背中を向けて歩き出す。
私の背中に向けて、
“紗英ちゃん”と呼ぶ声が聞こえてくるが、
それを無視して歩き続けた。
間抜けな顔をしながら
私の背中をただ見つめるだけの男を想像する。
私は浮かべた涙を拭いて唇の端を上げた。