S的？彼氏の思うコト ～平畠 慎太郎side story～

今日は久々の休み。
疲れが溜まっていたのか、珍しく昼近くまで寝てしまった。
冷蔵庫を見ても、簡単に摘めるものが見当たらない。

「こんな時は、『モンツァ』のパンだな。」

『モンツァ』とは、駅前のパン屋の名前だ。
小麦粉などの材料にもこだわっているらしく、中々美味しい。
特に、焼き立てのバゲットは絶品だ。

俺は、簡単に身支度をすると、駅へ向かって歩き出した。

モンツァに入ると、店の人がバゲットを並べている所だった。
本当は、直ぐに食べられる惣菜パンを買うつもりだったが、焼き立ての匂いに負け、バゲットを手に取った。

「焼き立てを食べられることは、滅多に無いからな。」

そう言って自分を納得させる。

会計を済ませると、店の扉を開けた。

人影に何気なく目線を上げると、見覚えのある顔が飛び込んできた。

安浦だ。

どうやら、安浦も驚いている様で、声にならずに口だけパクパク動いている。

「何だその変な顔は。」

俺は、間抜けな顔にそうはき捨てた。

「あの。彩の家がこの辺で、急に呼び出されて、カワイイパン屋さんがあったから、買って帰ろうかと。」

本人は懸命に説明をしている様だが、支離滅裂な話に首を傾げた。

「そう。じゃあな。」

急にあの日の事を思い出し、いたたまれなくなった俺は素っ気なくそう言うと、安浦に背を向けた。

やはり、仕事中とプライベートでは訳が違う。
必要以上に意識してしまっている自分が嫌だった。

「待って下さい！」

その思いを振り切ろうと一歩を踏み出した俺に、背後から声がする。
振り向くと、安浦が泣いているのが分かった。

「お、おい。」

俺は、予想外の涙にたじろぐ事しか出来ない。

「何で、平畠さんはそうなんですか！」

安浦に近づくと、次から次にこぼれ出す涙が良く分かった。

「平畠さんの事、何にも知らないし、分からないんですぅ。」

両手で顔を覆い俯く安浦。
ふと、周りを見ると、何人かの視線を感じた。

状況的には、俺がコイツを泣かせた様に見えるだろう。
このままでは分が悪い。

「くそ。」

俺は、この場を離れようと、安浦の手を引っ張った。