ペテン師の恋
「その絵が気になりますか?」





突然、後ろから聞き慣れた男の声がし、振り返ると、そこにはあの笑みを浮かべた朱一がいた。





「朱一さん…」





呆然と彼の顔を見ていると、彼は私の真横に立ち、自分の絵を見つめた。





そのときに香る彼の薫りは、せっかく、香りを消すために頑張っていた私の努力を一瞬で無駄にした。





「どうして、作家さんがここに?」





嫌味っぽく聞くと、彼は平然と答えた。





「今日が最終日でね、イベントやっていたんだよ。そうしたら、片付けはじめようとしたら、一人ギリギリでお客さんが現れて…」





そういって、朱一は悪戯な笑みを浮かべて私を見た。




考えてみたらそうかもしれない。最終日でイベント終わりならもう、客は帰るし、閉館15分前なんて片付けを始める時間だ。





私はなんだか、恥ずかしくなった。





「そっ、そうだったの…。じゃあ、お邪魔みたいだし帰るわ」





私は踵を返し、帰ろうとすると、彼は私の腕を掴んだ。





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