ペテン師の恋
私は振り返ると、朱一の顔が近づいて、唇を重ねられた。





私は朱一からの口づけを拒むことは出来なかった。彼の瞳は私の身体の自由を奪う。





そして、私自身、彼を拒むことをしなかった。普通のお客さんなら、いつだって気を張っているため、拒めるのに、どうしてだろう。





「いいのかしら?作家さんがお客さんにそんなことして…」





嫌味を言うことが、私の最大の抵抗だった。





「スタッフは皆、帰したからね。誰も目撃者はいない」





私は受付の方に視線をむけると、確かに誰もいなかった。





「今から、食事でもしようか」





また、彼は何かを企んでいるかもしれない。





でも、それならそれでもいい。





私も聞きたいことがたくさんある。





「いいわよ」





朱一は、私の頭を撫でた。




「じゃあ、片付け手伝ってもらうよ」





「えっ…?片付け?」





朱一の言葉がのみこめなかった。





片付けなんて…





この、私が?





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