神龍の宴 覚醒の春
「あること?あることって何?」

凛の問いに、暦ははぐらかすような笑みを浮かべた。


「そのうち、わかるよ。俺のやろうとしてること」


…さっぱり訳がわからない。凛はしかし、深追いせずにアイスコーヒーを飲み干した。


時間が足りない、か。


二十歳そこそこで、それまでの生活を一転させるほど暦を駆り立てたものはなんだったのだろう。


その時、凛の胸ポケットの中でまた携帯が震えた。着信を見ると、真耶子だった。


「俺、ちょっとトイレ」


「行ってらっしゃーい」


ヨーグルトパフェを食べながら、勢が笑顔で手を振る。凛の背中を見送りながら、勢は「ふぅん」とため息混じりに頷いた。



「なーんにも進展ないんだなぁ。相変わらず全く思い出せてないんだね、凛」


ハダサが気の毒、と勢は呟く。


「何がネックで覚醒しないんだろ。やっぱりあの時、アデュスは死んだのかな」

それを受けて暦が小さく首を振る。


「わからない。でも還る身体がないのなら、むやみに覚醒させるのは残酷なだけだな」


「…ハダサが凛の覚醒を誘導しないのは、それが原因なんだろうけど…確かめる術もないもんねえ」


凛は繰り返し見るあの夢をなんだと思っているのだろう。あの夢の続きがこの世界であることに気づく日は来るのだろうか。


「還る身体、か。ま、還れたとしても、僕は還る気ないけどね」


勢はおおげさに両手を広げて肩をすくめる。暦は心なしか少し自虐めいた笑いを口の端に浮かべた。


「あちらに還れば、俺達は罪人だからな。もっとも…勢の場合はとばっちりもいいところで、諸悪の根源としては謝っても謝り切れない…申し訳ないと思っているよ…」


「そんなの気にしなくてもいいさ。僕はこちらの生活が気に入ってるからね。いずれはあちらの知識を活かしてうまくやろうと思ってるしさ」



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