私の愛した人
黒いライダースーツをきた女性はヘルメットをとった。

黒くて長いストレートのつやのある髪の毛が腰のあたりでゆれた。

彼女は私を見つめた。

「あなた。今死にかけた?」
は?
何この失礼な人。

たしかに私は今死にかけた。

でもこの人は赤の他人だし、現場に立ち合わせていたわけ出もない。

「なんなんですかあなた?」

「質問に答えてくれる?」

質問を質問で返すなんて失礼な人だな…

「確かに事故には会いましたけど…
それがなにか?」

「そのあとなにかを見なかった?」

しかもいきなり質問攻め?
ますます失礼な人だな…

「なにかって例えばなんですか?」

「人…とか?」

私はふと『彼』のことを思い出した。

『このことは内緒だよ?』
彼が誰かなんて知らない。
ただ、誰か別の人によく似た雰囲気を漂わせていた彼との約束を守りたい気持ちになった。

「人なら今、私の前にいる失礼な女性に会いましたけど?」

私は思いっきり嫌味っぽく言ってやる。

だってこの人ムカつくんだもん!

「私じゃなくその前に誰かに会ったわよね?」

ライダースーツの女性はバイクから降りて、腰に手を当て私を鋭い目でにらみつけた。

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