ディアパゾン−世界に響く神の歌−
3章 白の魔術師

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その朝、昨晩からの雨が珍しく長く降り続いたおかげでムイの山から流れてくる水量が増え、いつもは枯れていることの多い小川がそれなりの川のように水しぶきを上げながら流れていた。


そこは大きな川が二股になった地形で、元々はそれぞれの川辺にそれなりの集落があったのだが、数十年前から水量の減少が著しくなり、片方の川は枯れ、集落の人間も残った川のほうに移り住むようになった。

残った川のほうには人々が移り住んだ分だけ賑やかな町になり、枯れた川のあたりには小さな村がかろうじて残るだけになっている。


その取り残された村に住む一人の男が、いつものように枯れた川に沿った道を上流にさかのぼり、大きな川と合流する場所にある水汲み場に下りたとき、何かが岸辺に打ち上げられているのに気付いた。

濡れた塊は地面に張り付いていて、男は最初、上流から木でも流れ着いたのかと思った。
たまに獣が生きたまま流れ着いてくることもあり、男は慎重に近づく。

塊はぴくりともせず、獣にしては小さかった。

足場に気をつけながらさらに近づいて、男は慌てた。

その塊が人間だったからだ。

微動だにしない身体を急いで岸から引っ張りあげる。水に濡れた身体は重く、冷たい身体は死んでいるのではないかと思ったが、その胸は確かにゆるく上下していた。

それを確かめた男はほっとして、やっと自分が助けた人物が、まだ年若い少女といってもいいくらいの顔をしていることに気付いた。



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