smooch【BL/完結】
14.甘い匂い


2月中旬のある日。
僕は、周りの友人たちより少しだけ早い入試を終え、ここ数日そうしていたように自宅へ帰った。

気が抜けたのかいつの間にかベッドの上で眠っていて、目を覚ますと、空腹を覚えたので部屋から出た。
パンか何かあるだろうと台所へ向かう。


ドアを開けた途端、甘い匂いが漂ってくる。
……それは恐らく台所からで。

そういえば、もうすぐだったな、と間近に迫るあのイベントを思い出した。

チョコを作っているんだろうと納得すると同時に、ハッと気づき、急いで匂いの元へと向かう。

台所に立っているのは、ほぼ間違いなく母さんだ。
僕の不器用さは母親譲りなのだから、彼女もまた然り。


強すぎるチョコの匂いに不安を覚えながら滑り込むように入った室内には、
いつもの綺麗すぎる家の流しの上やコンロの上に、今まで見た事の無い、ガラスと銀色のボウルがいくつか並んでいた。

僕が入ってきた事に気付いた母さんが振り返った。
手にはヘラのような物を持っている。

「起きたの?おはよう」

そう言われて時計を見れば、太陽が出たかどうか位の時間だった。
予想より長く寝ていたなと思いながら挨拶を返そうとしたら……母さんの手元からボトリと黒っぽい塊が落ちた。

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