幕末仮想現実(バクマツバーチャルリアリティー)
「攘夷が成功したら、吉田先生に報告に行かんにゃあ、いけんの」
「吉田先生が生きていらっしゃったら、何と言われたでしょうね」
「さぁ、のう。気に入らんかもしれんが、僕らのやろうとしよることも、わかって下さるじゃろ」
「そうですね」
「…よし、久坂、攘夷成功前祝いに一杯やるか」
「いいですね」

あ、行っちゃった…。
吉田先生ってのは、吉田松陰の事よね、きっと。
じゃ、きっとあの人も塾の人よね。久坂かぁ?いたっけ、そんな人。…あっ、いた、いた!
前の時間に尾崎さんがデカイ声で言ってたっけ。
『高杉晋作とともに松下村塾の双璧と言われたのが、久坂玄瑞』
って。あ〜、そうそう、『松下村塾』!そんでもって、
『高杉晋作の方が一個年上』
って。だから、久坂さんの方は敬語使ってたんだ。
高杉さんの使ってる言葉はいまいち、ヒヤリングしにくい。
たぶん、あれは、ごてごての長州弁なんだろうな。

ところで。
この『バーチャルリアリティー』から、元の現実にどうやったら戻れるのか聞かなかったもんなぁ。
数衛がいきなり話題変えちゃうからぁ。

あたしは、これからどうすればいいんだろう。
あの二人と一緒に一杯やるってわけにもいかないだろうし…。

……………。

ん〜、このまま、こんな岩場にも居たくないしぃ。
ようしっ、こうなってしまったら、クヨクヨしててもしょうがないっ。こういう時はなるようにしかなんないんだから。
勇気を出して、あそこにいる人に、声かけてみよっと。

「あのぉ、すみませぇん」
「…」
な、何よぉ。無視することないじゃないっ。
人が勇気を振り絞って声かけたっていうのにさっ。
「しかし、今日はええ天気じゃのう」
「そうじゃのう」
…。よし、気を取り直して、もう一度。
「あ、あのぉ」
「こう天気がええと、釣りでもしとうなるのう」
「ああ、ほんとじゃのう」
…ええいっ、頭きた!
「ちょっと、おっさん!!無視しないでよねっ!!」
「さぁ、そろそろ休憩するかのぅ」
「おお、はぁ、見回り交代の時間じゃろ」
…何なのよ…。
マジであたしが見えてないっていうの?
ん、んん?なんか真っ暗になってきたっ。何にも見えないよーっ。
こ、怖いっ。何?最先端の科学を駆使したコンピュータの故障???
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