僕の愛した生徒


翌朝

僕はいつものように、すれ違う生徒に挨拶をしながら職員室までの廊下を歩く。

その中で、僕は前から歩いてくる奈菜を見つけた。


奈菜は生欠伸を繰り返している。



僕は奈菜とすれ違う一瞬に

「寝不足か?」

とイタズラっぽく声をかける。

すると

「お陰様で」

奈菜もイタズラっぽく返し、ニッコリと笑った。



こんな小さなやり取りが
秘密を共有する僕たちにとっては
特別な瞬間で至福の時。

けれど、その次の瞬間には、言葉に出来ないほどの切ない思いが必ず込み上げてくる。



僕たちは先生と生徒に戻らなければならないから……



僕たちは何事も無かったように、お互いの目的地へと向かった。




その日の放課後。

僕は仕事をしながら、部活を終える奈菜を待って、久しぶりに一緒の時間を過ごす。


二人で車に乗り込み、目指すはコンビニ。

そこで僕はお弁当を2つ買って、
再び走り出す車は、季節はずれの海へと向かう。

そこで車を停めて、僕たちは温いお弁当を食べ、車内で海を眺めながら話をした。


会話が途切れると聴こえてくる波の音が何となく寂しくて、

僕は奈菜を引き寄せ、菜奈の温度を確かめる。



温かい。

ずっと、こうしていられたらな…



目を閉じて浸る僕に
突然、藤岡さんの言葉が蘇った。


僕は腕の中にいる奈菜に尋ねる。


「奈菜の将来の夢ってなに?」

「いきなりどうしたの?」


腕の中で僕を見上げる奈菜。


「奈菜の夢を聞いたことが無かったから、聞いてみたくなったんだ」


「そうなんだ。

私の夢はね……

なんだろう?
まだ分かんない」


奈菜はそう言って苦笑いした。
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