エリートな彼に甘く奪われました

釜田と俺は安東先輩に軽く会釈をしてから歩き出した。

彼女の真横を釜田に続いてすれ違う。

七瀬はさっきからずっと俺を見たままだ。

すれ違う瞬間に俺も一瞬だけ彼女を見た。

思い切り視線が合うが、もう彼女に笑いかける心の余裕は俺にはなかった。

俺が彼女の真横を真顔で通り過ぎた瞬間、

「あ、おい、愛！」

安東先輩の大きな声に何事かと、俺と釜田は咄嗟に振り返る。

彼女が急に駆け出しビアホールの入口扉を押し開け、激しく雨の降る外へ飛び出していくところだった。

安東先輩は「愛！」と彼女を呼びつつも追いかける風ではない。



次の瞬間、思わず俺は走り出していた。

彼女は脇目もふらずに走り続けている。

その小さな背中を見失わない様に俺も必死で追いかけた。

俺も彼女も降りしきる雨に強く打たれながら街の中を駆け抜けていく。