薔薇部屋
ある日、遠野はミキの部屋の花瓶の花を取り替えていた

「えっと…お嬢様、毎回その表情、やめません?」
「なぜ、花を飾るの?」
「ですから、部屋を明るくする為に…」
「好きではないわ」
花が嫌い…―それはなぜか分からないが、ミキは花が嫌いだった

飾られた花は、カーネーション…―母の日に渡す花だと聞いた事があるが、ミキには母がいない為、興味すらわかない
何より、美しさに腹がたつ
「花はどうしてそんなに綺麗なの?」

どこか憎しみに満ちた表情で、花瓶のカーネーションを見詰める

「どうしてでしょうね、お嬢様」
「腹がたつの。美しくて、簡単に枯れて散ってしまう」

憎しみの表情は、いつしか哀しみの表情に変わった…―美しい囚われの姫は、今にも散ってしまそうな花のようだった

カーネーションは、そんなミキの哀しみが分かるかのように、下を向いてしまっていた…―それを、そっと遠野は撫でた

「お嬢様は、花のようですね」
「それは厭味?」
「滅相もない…美し過ぎるんですよ、お嬢様は」

そんな遠野の言葉に、ミキは苦笑いをした…―そのミキの顔をわざと見ないようにして、言葉を続けた

「今にも散ってしまいそう」
「私は…原因不明の病にかかっているから、確かにいつ散ってもおかしくないわね」

それ以上の会話はなかった
< 4 / 25 >

この作品をシェア

pagetop