六天楼の宝珠〜亘娥編〜
「これ、なんて言う瓊瑶か知っている?」

「わたくしに聞かないでくださいまし。奥方様の落し物ではないのですか」

「あ! そうそう。そうなの、何でもないわ」

 阿坤の眼光鋭い切り返しに慌てる。

 調べるにはもっと違う手段を取らなければと、翠玉はその後槐苑が来るのを待って卓のよく見える場所に、さりげなく拾った耳飾を置いておいた。

「奥方様、これは一体──」

 予想通り顔色を変えて詰め寄る老婆に「ああ、今朝庭先で見つけたのですが、持ち主がわからないので其処に置いてあるのです」と平静を装って答える。

「もしかして槐苑様、お心当たりがございますか?」

「い、いや、儂は知らぬが。御館様ならばご存知かもしれませんのう。娥玉(がぎょく)の耳飾など、よほどの貴人でなければ身に付けませぬからな」

 昨日の今日なので、明らかに仲直りさせようという発言なのは明らかだ。だが後半の言葉で充分目的は果たした。

 翠玉はにっこりと笑う。

「そうですわね。では今度お会いして時にでも、聞いてみましょう」

 しかし彼女が実際にした事と言えば、侍女の紗甫に娥玉について聞くのと、その日の夜に再び同じ時刻を狙って庭先を見張るというものだった。

──この耳飾の持ち主は、きっと取り返しにやって来るに違いない。

 あまり瓊瑶に詳しくはない翠玉でも、槐苑がそう評する高価なものをわざわざ夜に付けているのだから、よほどの思い入れがあるのだろうとは想像が付く。

 本来、耳飾は客を遇するなど公の場でも出ない限り付けないものだからだ。

 華頭窓から時折庭を覗く事しばし、同じ体勢に身体が凝って来たなと思い始めた頃にようやく「彼女」はやって来た。
< 25 / 77 >

この作品をシェア

pagetop