虹が見えたら
なるみが部屋のドアを開けると真樹が立っていた。
「あ、どうぞ。」
「いや、明日のお小遣いと連絡先のメモを持ってきただけだから。」
「お小遣いならお兄ちゃんから先にせびっておいたから大丈夫ですよ。」
なるみがそう言ってメモだけを受け取ろうとすると、真樹はなるみの手をギュッとつかんだ。
「逃げないで。伊織が兄だとわかってから、だんだんよそよそしくなった。
僕はこんなことなら、伊織をここで働かせなければよかったなんて思ったりして。
ごめん、僕は、」
「ちがいます!」
「えっ?」
「お兄ちゃんがいるからはずかしいだけです。
でも、真樹さんが私にとってどういう位置の人なのか決めかねているのも本当で、私が勝手に意識過剰になってるんです。
嫌ってるとか避けてるつもりはないんです。
私に自信が持てないから近づけないっていうか・・・こんなにきれいなお兄さんが訪ねてきてくれるだけでどきどきしちゃうじゃないですか。
あっ!ちゃんとお土産買ってきますから。ありがとうございました。
閉めだしちゃいますけどごめんなさい!大好きですから、ほ、ほんとです。ごめんなさい!」
なるみは力いっぱい真樹を突き放してドアを閉めた。
追い出されてドアを閉められた真樹は黙って管理人室にもどった。
「大好きですからごめんなさい・・・か。
どきどきするのは僕の方だよ、なるみちゃん。
じっと帰りを待っていられるんだろうか・・・僕は。」