虹が見えたら

なるみはすごく懐かしい名前をきいた気がした。

真樹の家で書き置きを読んでからというもの、いくら伊織や真樹の会社の社員にきいても真樹の行方はわからないままだったし、教えてももらえなかった。


「そうですか・・・」



「あれ、それだけですか?
すぐに大崎家に行くって言いだすかと思ったけど。」



「行ってもきっとあってくれないと思うんです。
私の姿を見たら逃げてしまうかもしれないし。」



「記者会見場でのあなたらしからぬ、お言葉ですね。」



「私に危険が及ばないようにって出て行って、お兄ちゃんや社員の人たちみんなに口止めを徹底してるくらいなんだもの。
今、私が余計なことしたらきっと足をひっぱってしまう。」



「姿はなくても前よりずっと信じてるんだね。
じゃ、もう1つだけイジワルしちゃおうかな。

どうやら真樹さんは大崎家で家政婦をしているとか。
日中は大崎さんは仕事でいないからね。
御用聞きの相手なんかもしているそうですよ。」



「真樹さんが大崎家の家政婦さん?
御用聞き・・・か。

あの、沢井さん。まさかとは思うんですけど、大崎さんのおうちには何が宅配されてるとかわかってるんですか?」



「ええ。まだ今なら、息子が引っ越ししたばかりだから、水や食料なんかの生協の宅配はあるみたいですよ。
えっ?配達してみたいですか?」


「あの、私なんとも・・・言ってないのに。」



それでもなるみは、真樹に1つだけ聞きたいことがあった。
羽村真樹になるために何をするというのか?
それが危険を伴うならやめさせなくちゃならない。



そして、ふと気がつくと沢井に手を握られたまま、寮の裏手に来ていた。


「沢井さん・・・?」
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