虹が見えたら

「はい、ありがとうございます。
これから両親とも兄さんのことをよく相談して、これからのことを考えようと思います。」


真樹はなるみを車に乗せ、誰かに電話をしてから車を走らせた。

しかし、車はなるみの知らないところへ向かっていた。


「どこへ行くんですか?」


「家。」



「でも、こんな道は通らないはずなんじゃ。」



「寮じゃなくて家だから。」



なんか口調が怒ってる?
なるみは聞きたいことはあるのに、先ほどの真樹の行動といい、今の口調といい、自分の知らない冷たい真樹を感じて言葉が出なかった。


見かけはかっこいいというより、きれいで優しそうで、いつもは年齢よりも子どもっぽっくてそれでいて面倒見のいい頼れるお兄さん。
暴力なんてぜんぜん縁のない人だとばかり思っていたのに、今は隣にいるのがすごく怖い。

思わず、真樹がかぶせてくれたジャケットの襟をぎゅっとひっぱってにぎった。



「寒いの?」


そう聞かれて、なんとか声をふりしぼってなるみは答える。


「あ、え・・・少し。」



「もうちょっと辛抱してね。
その格好で寮へもどって誰かに見られたりしたら、大騒ぎになるでしょ。
家に着いたら、お手伝いさんが君の服を用意しててくれてるから着替えればいい。

シャワーも自由に使っていいからね。」


いつもの真樹の口調になって、さっきかけていた電話が自分の服のことだとわかって、なるみは固くなっていた体の力を緩めた。



学校も寮も森をぬけたかなり山の手であるのに、たどり着いた真樹の家は高級住宅街の真ん中にある高級マンションの最上階だった。
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