虹が見えたら

なるみは、真樹がそういう営業口調になったときを知っている。
お説教してきたり、自分に対してたくさん物事を考えてほしいというときにそういう物言いをしてくる。


するとなるみが返事をする前にさやかが頭を下げて言った。


「わかりました。
とにかく伊織さんが恩人だということがわかったのと、お礼を言えてよかったと思っています。
本当にありがとうございました。」


「さやか・・・。」


さやかがさっさと学校へ行くのを、追いかけるようにしてなるみも登校した。


そして、昼休みにさやかはなるみに言った。



「私、虹色寮に住むわ。」


「ええっ!」


さやかの真剣な顔になるみは驚いた。
ふだんから行動派なさやかではあったが、伊織のことはせいぜい、町で見つけて追っかけをするかもしれない程度に考えていたからである。


さやかは、ここは正当に両親から許可をとり、学校に届け出をして寮住まいをしようと考えたが、それだけでは虹色寮に住める確証はない。


別の女子寮に入れられてしまったのでは、さやかの思惑ははずれてしまう。
そこで、さやかはなるみに真樹へ便宜をはかってくれないかと頼むのであった。



「そんなの無理だよぉ・・・。
真樹さんは仕事には忠実だもの。
それでなくても、不純異性交遊はうるさくて、今年だって妊娠退学事件があったばかりで真樹さんはピリピリしてるんだから。」


なるみがそういうと、とりあえずさやかは納得してくれたようであった。
しかしこの後で、なるみはとんでもないことに巻き込まれることになるとはこのとき想像もつかなかった。





それは1週間後の休日の朝のことだった。


いきなりなるみの携帯電話に真樹から電話があった。
いつもなら部屋を訪ねてくるのに、今日は出先なのかと思ったが電話に出るなりなるみは驚いた。


「な、なるみちゃん!すぐに管理人室に来て。
君の友達が来て、困ったことになってるんだ。早く、今すぐ来て!」

< 64 / 170 >

この作品をシェア

pagetop