6月の蛍―宗久シリーズ1―
青、桃、紫…淡い濃淡に色付いた花びらは、雨に打たれる度に色合いが際立ってくる。


母の話では、雨の成分により色が変わるそうだ。


僕にはよくわからないが、綺麗だと思うくらいはできる。





庭を見つめる咲子さんの瞳も、霧雨と戯れる紫陽花へと向けられていた。



微妙に焦点が合わない視線は、白昼夢でも見ている様だ。


その横顔はとても綺麗で、張り詰める様な哀愁感が漂っていて。


日本画の美人を連想させる。




お茶を出す事すら忘れ、その横顔を見つめた。






何となく僕は、なぜ父がこの女性を助けてやりたかったのかを理解できた気がした。



父と言わず、美意識のある男ならば、彼女を助けてやろうと思うだろう。





「どうぞ」



ようやく座卓にお茶を置いた。


気付いた咲子さんは、横顔を僕へと向けた。



「ありがとうございます」




伏せた瞳、睫毛が影となり頬にかかる。






本当に綺麗な人だ。



茶碗を持ち上げる白くて細い指も、何気ない一つ一つの仕草も。
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