6月の蛍―宗久シリーズ1―
今でもはっきりと覚えている。



きっと、僕を膝に抱きながら、その話を語るあの人の表情が、あまりにも切なげで痛々しかったからだと思う。


耳の奥に焼き付いて離れない、あの、弱々しい声も………。





「………あ、そうか」





だから?





だから今、彼女は僕の目の前に居る?




父の代わりではなく、きっと……これは…初めから僕の役目だったのか?




望まれている。



彼女から、あの人から。





なぜか今夜は、早く帰らないとと思えたはずだ。


あの、おかしな空を見上げた時から、何となく気付いていたんだな。



そうか。





これがきっと、あの人の為に僕ができる唯一の……最後の……。







考えて笑った。



おかしかったからじゃない。



答えに、気付けたから。





もう、迷いや戸惑いは無い。




僕はもうすぐ、咲子さんに全てを伝える事ができる。




あの人の望みを、叶えてやれる。






そう、確信した。






.
< 14 / 93 >

この作品をシェア

pagetop