6月の蛍―宗久シリーズ1―
語る咲子さんの瞳は、夢を見ている様にさえ見える。



いや、断続的に綴られる彼女の言葉に、僕もまた、夢を見ている様な感覚に陥っているのかもしれない。




まぁ、それもいいか。







「綺麗な蛍でしたか?」


「ええ、とても。ほんのりとした光が優しくて、舞う様に飛ぶ姿も愛らしくて」




そう言って、少女の様に微笑む。




「私、捕まえようとしました」

「捕まりましたか?」

「いいえ、あの人に止められました」





恥ずかしそうにうつむき、咲子さんは白い指で茶碗の縁を撫でた。





「綺麗な蛍を独り占めしてはいけない。僕達が蛍を見て幸せな気持ちになれたのなら、他の人達にも平等にそれを与えなければ、と」





あの人らしいな。



自然と、笑みがこぼれた。





「私は幼くて、あの人のそんな面に憧れてもおりました。私があの人と居る事に幸せを感じる様に、私もただあの人に、幸せを与えてあげられたらと思いました」



「…愛してらしたのですね」




懸命だったのだ。


咲子さんも、切実に、純粋に。



あの人と同じ様に、ただ懸命だったのだ。
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