6月の蛍―宗久シリーズ1―
「来週の火曜の午前にでも。俺は休日で自宅におりますし、妻は華道の展覧会の手伝いで留守ですから」







……………そんな…。





金森の言葉が何を意味しているのか、はっきりと受け取れた。



受話器を握る手が、怒りで震える。






「………あなたという方は…」

「簪を返して欲しいのでしょう?あなたが来られないのでしたら、俺が届けましょうか?お宅の姑にでも預けて帰りますよ。それとも、夫が帰宅している時間の方がよろしいですか」






ひどい………。



ひどい……ひどい……。



私が恐れている事を……笑いながら………。





………悔しい。







なぜ私は、金森の所へ行ってしまったのだ。


行かなければ、こんな事には……!






私の身体の事、落とした簪。



金森は、私の弱さに付け込んでくる。


誰にも言えない、話せない秘密を知り……首を締め付ける。



けれど、私は怖い………。



夫に、姑に、事実を知られる事が。



夫の愛を、失う事が……。





罪を犯した私には、再び金森の要求に応える事でしか、今を守る術は無かった。
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