6月の蛍―宗久シリーズ1―
それが今は、私と金森の関係を繋ぐ、鎖になっている。





私が、そうしてしまった。


夫との思い出の簪を、私と同じ様に……汚してしまった。






どうする事もできない。




私はただ、知られない為に、金森の要求に応えるしか…………。













「咲子、あの簪はどうした?」







夫の問い掛け、風呂上がり、鏡台へと向いていた私の胸が、びくりと高鳴る。




髪を梳く手を止め、動揺を悟られぬ様、静かに降ろす。





「挿しているのを見ないが」







何も知らない夫。




綺麗に整えられた布団の上、あぐらをかいて本を開きながら……何気無く聞いてくる。










「………あの簪は」





言葉が、喉につかえた。




痛みか苦しさかわからない喉の違和感は、櫛を持つ指を小刻みに震えさせる。







「どうした?」





鏡越し、首を傾げ見つめてくる夫の瞳………。





何も知らないのだ。




簪の在りか所か、私が汚れている事さえも………。






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