6月の蛍―宗久シリーズ1―
慌ただしい正月も過ぎ、私は夫を仕事へと見送る。



「今日は正月明けだから、帰りは遅くなるかもしれない」



白い息で曇る夫の顔を見つめ、静かにうなづいた。






玄関前、空を見上げる。



水浅葱色の空には灰色がかった雲が浮き、晴れの日には不似合いな速さで流れている。


連なる山の上には層の厚い黒い雲が、山を威圧するまでの大きさに膨れ上がっていた。



まるで、青空を飲み込む様に見える。






「あぁ、雪が降るかもしれないな」

「雪ですか?」


冷たい風に肩をすくめながら、夫は山を指差す。





「ほら、山よりも高く黒い雲が上がっているだろう?雪雲だよ。こんな風が強い日は山からの吹き降ろしに乗って、雪雲が流されてくるんだ」


「初雪ですね」




私の言葉に、夫は笑った。




「咲子は雪が好きだったな」

「ええ」





雪は好き。


綺麗だ。



見慣れた景色を、違う風景に変えてしまう。


美しくしてくれる。




ゆっくりと舞い落ちる雪を見つめていると、健気な気持ちを思い出す。



あの白さに憧れる。



私も、白く生まれ変われたなら……。
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