6月の蛍―宗久シリーズ1―
夫も、知らない事。



ましてや遠く離れて住んでいる義弟に、何かが知られる筈はない。







なのに義弟の真剣な瞳は、私に何かを必死に訴えかけている。





一体、何を…………。









………聞けない。



今の私には、聞けない。






義弟の強い願いを含んだ瞳は、私がそれを了承するのを待っていた。



約束をと、訴えかけてくる。






それ以外、許さないと……。













「わかりました。あなたがそこまで言うのなら、そうします」




良かったと、義弟は安堵の溜息をついて笑う。





「必ずですよ?決して出ないで下さいね」







私は、小さくうなづくのみの同意を返した。










だが私は、義弟との約束を破る事になる。





破る事を前提にした約束だった。







私は………義弟の、約束という形の心配より、愛する夫との今を守る為、金森との約束の方を選んだ………………。





それを選ぶしか、無かった。
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