6月の蛍―宗久シリーズ1―
そんな時、いつも思う。






この身体から、せめて心だけでも抜け出せたならいいのに。




そうして、夫のそばへと飛んでいけたならいいのに……。











「お義母様、私、少し出て参ります」




約束の時間が迫り、覚悟を決めた私は、居間に居る姑に声を掛けた。







姑は、来客中であった。






その中年の女性は、私も知っている。



分家の嫁で、遠縁にあたる。


叔母と呼んではいるが、家系的にはほとんど他人に等しい。






姑が管理している貸家を借りていると聞いた。


姑から、お金を借りている事も。



姑の機嫌取りなのか、時々こうして訪れて来る。







私は、この女性が好きではなかった。


詮索好きなのだ。



あれこれと、有る事無い事を、大袈裟に吹聴して回る癖がある。








「あら、咲子さんお出かけ?」

「ええ……」




そう、と叔母は笑った。



作り笑いだ。



「どこにお出かけ?」

「友人の所に…約束がありまして」




「あら、そう?お気をつけて」



その言葉に、心はこもってはいない。



.
< 55 / 93 >

この作品をシェア

pagetop