月物語 ~黒き者たちの宴~
「飛燕殿の身体だということを忘れおったか。」
―飛燕の身体…
『私、あなたに謝れない』
『“あなた”に』
“あなた”
彩夏は、はっとなる。
もし、その予想が正しければ…何ということだろう。
取り返しのつかないことになる。
どうしたのかと尋ねる平当の腕を掴み、彩夏はよろよろと立ち上がった。
―止めなければ。
“あの子”に罪を犯させてはいけない。
「雉院様のところへ、急がなければ…」
彩夏もまた、全速力で雉院の元へ走っていった。
「一体何だというのだ。
おい、誰かおらぬか。」
平当の呼びかけに、守兵がやってきた。
すぐさま延尉長を雉院の部屋へ呼ぶように命令すると、自分も彩夏の後を追ったのだった。