雨のち晴





「失礼しました」





次の日、あたしは関根に


個人面談するから残れと言われ、


1人職員室で関根と面談をした。


進路相談半分、雑用半分。


別に嫌いじゃないからいいけど、


こんな時間まで残すって。





「もう真っ暗じゃん」





校舎の電気もちらほら消えていて、


すごく怖い。


職員室から教室までの廊下には


誰もいなくて。


気を紛らわすために鼻歌を歌う。


案の定教室に電気が付いていない。


誰もいないのか。


そう思って鞄だけ取ろうと、


電気も付けずに中に入ると。






「何してんだ、お前」





「っえ、誰っ…、と、十夜?」





驚き過ぎて、


自分が何を言っているか


分かんなくなった。


暗闇にいる十夜は鞄を持って、


教室を出ようとしていて。






「俺は忘れ物取りに来た。お前は?」





「あたしは関根と面談。でも雑用してて遅くなっちゃって」





一緒に帰れるかな。


誘ってみてもいいかな。


なんて思うあたし。


出ようとしている十夜の横を


通り過ぎて、自分の席に向かう。







「朱里」






歩いていたはずなのに、


なぜか進まなくなって。


十夜の声が消えたと同時に。


引っ張られたんだ、って


気付いた時には。


十夜に、キス、されていた。






「十…夜、」





「ごめん」






謝った十夜は、


そのまま振り返ることなく


帰って行った。


あたしは、さっきまで十夜が


触れていた唇に触れて。


呆然と立ち尽くした。


今、キス、されたよね?


勘違いじゃ、ないよね?


重なった瞬間の感触とか、


匂いが忘れられない。


引っ張られた時の力の強さだとか。


朱里、って呼んだ声とか。


全部があたしの全部を満たす。


こんなことって、


あるんだな。






「十夜が、あたしに…」






嬉しかった。


何にも言い換えようのない


嬉しさが込み上げて来て。


帰り道を走って帰った。


飛び跳ねたい気分でいっぱいで。


より一層、


好きになってしまった。


そして少しして、戸惑った。


十夜はあたしをフったのに。


あたし、フラれたのに。


里菜ちゃんがいるのに。


何でキスなんか、


したんだよ。


十夜はずるい。


あたしが好きだったこと、


知ってるくせに。


とか言いながら、


嬉しいと思うあたしは。


やっぱりおかしいのかもしれない。






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