失恋少女とヤンキーと時々お馬鹿
「俺だって家にいたら素で笑うよ」
今、家にいるんだ。
「家にいたら、武は昔に戻るんだね」
「まぁそうだね。ってか、もう俺のこと、かな、って呼んでくれないの?」
電話の向こうから聞こえてくる武の声には、社交場で聞くようなわざとらしい声ではない。
「昔は武って言えなかったから。今は言えるし」
武のことをかなと呼ぶのは昔も今もあたしだけだった。
幼なじみたちはみんな武って呼んでたなぁ。
――あたし、滑舌悪かったみたいじゃん
「俺、亜美にかなってよばれるの好きだったんだけど」
と言われても……
「……分かった。かなって呼ぶ。でも電話とか、二人の時だけだからね」
社交場で会う。
それはビジネスパートナーとしていうことで、友達同士の仲良しパーティーではないのだから。
「それくらいは分かってるよ」
あたりまえじゃん
そう言った武に、あたしは完璧に昔を思い出していた。
無邪気で、無知で、可愛げがあったころのあたしたち。
いまは変わってしまった幼なじみの関係も、いつかは取り戻したい。