失恋少女とヤンキーと時々お馬鹿



「俺だって家にいたら素で笑うよ」


今、家にいるんだ。


「家にいたら、武は昔に戻るんだね」


「まぁそうだね。ってか、もう俺のこと、かな、って呼んでくれないの?」


電話の向こうから聞こえてくる武の声には、社交場で聞くようなわざとらしい声ではない。


「昔は武って言えなかったから。今は言えるし」


武のことをかなと呼ぶのは昔も今もあたしだけだった。


幼なじみたちはみんな武って呼んでたなぁ。


――あたし、滑舌悪かったみたいじゃん


「俺、亜美にかなってよばれるの好きだったんだけど」


と言われても……


「……分かった。かなって呼ぶ。でも電話とか、二人の時だけだからね」


社交場で会う。


それはビジネスパートナーとしていうことで、友達同士の仲良しパーティーではないのだから。


「それくらいは分かってるよ」


あたりまえじゃん


そう言った武に、あたしは完璧に昔を思い出していた。


無邪気で、無知で、可愛げがあったころのあたしたち。


いまは変わってしまった幼なじみの関係も、いつかは取り戻したい。





< 203 / 509 >

この作品をシェア

pagetop