失恋少女とヤンキーと時々お馬鹿



痛くて、痛くて――…


胸の痛みを無視できるほどあたしは大人じゃない。


「明日、ちゃんとバイバイしたいっ。みんなの記憶に残りたくないなんて嘘だよ。あたしのこと、忘れてほしくない……」


亜美は母の前で涙を流した。


返ってこない返事に耳を傾けるように、傍に寄り添うように……。


「自分で決めたはずなのに、おかしいよね……。こんなにも心が揺れるなんて」


こんなはずじゃなかった。




あの時、そう、あの時だ。



あたしが大翔にぶつかった時、陽の言葉に甘えず、シュークリームを弁償していれば、こんな辛い想いをしなくてもよかったんだ。



でも、あの日がなければあたしは陽に会うこともなく、恋もせず、武と違和感にまみれた結婚をするところだったんだ。


後悔をしたことは不思議と無かった。


彼らとの思い出は、あたしを何歩も大人にしてくれた。







「……もっといたかったな」


彼らと。






< 406 / 509 >

この作品をシェア

pagetop